原因不明の頭痛、動悸、不眠
私はもともと心臓疾患など救急を中心とした内科医でした。心臓疾患は、治療に一刻を争うケースが多く、緊張度の高い日々が続いていました。
あるときから、頭痛や動悸、不眠といった不調が続き、私は体調を崩し気味になりました。
私は心臓が専門ですので、不整脈や心不全など循環器疾患を疑い検査を重ねましたが、いくら調べても、原因と思われる所見がありませんでした。
時に気分が落ち込むことはあってもそれがずっと続く訳でもなく、精神的なものを疑うこともありませんでした。
医者が自分の体調不良の理由が分からないのかと言われそうですが、灯台下暗しで患者さんの不調の原因は得意としているものの、自分自身の診断ことはなかなか分からないものです。
頭痛や不眠に効果のある薬を服用していましたが、あまり効果が得られませんでした。効いた日もありましたが、これらは症状を緩和するだけで根本的な解決にはなりません。
不調の原因は心にあった
体調が改善しない状況が続きました。あるとき以前より交流の機会をいただき尊敬している心療内科の先生に相談したところ、精神科の観点から専門的に診断していただきました。
その結果、私の不調の原因は循環器や脳の異常ではなくメンタルにあるのでは、とご指摘をいただきました。
私の症状や状況はうつ病やパニック障害などには当てはまりませんでしたが、自立神経失調症という診断をいただきました。
当時、当直や緊急手術など多忙な勤務や緊張を強いられる人間関係といった病院の状況から、ストレスの高い状況が長期間続き、交感神経と副交感神経の2つのバランスが崩れているようでした。
その結果、頭痛や動機、不眠といった身体の症状が現れたと考えられました。
つまり、カラダの不調の原因はココロだったのです。
自律神経失調症と向き合い、じっくりと治療
尊敬する先生に診断をいただき不調の原因が見えてきたことで、治療を前向きにとらえるようになりました。
引き続き症状に対する治療薬を服用しつつ、今一度、自律神経のバランスが崩れる原因を振り返りました。
特に、当時行っていた救急医療対応などの緊張度の高い勤務は不調の大きな原因と考えざるを得ませんでした。
また、自律神経失調症は、休息や生活リズムを整えることが重要ですので、それまでよりも、できる限りこれらを重視して生活することを心がけました。飲酒やカフェイン摂取などにも気をつけるようになりました。診断してくださった先生にカウンセリングのようなこともしばしば実施していただきました。
勤務の状況はすぐには変えられませんし、即効性のある治療というものではありませんので、時間をかけてじっくりと改善させることを目標にしていきました。
この経験が、後々開業した後の私の患者さんとのアプローチの基本「患者さんのお話をしっかり聞き、じっくりと治療していく」というものに繋がっていると考えています。
自分の不調をきっかけに
精神科領域を学び専門医に
こうして少しずつ体調が快方に向かう中で、私は精神科領域について興味や理解が深まっていきました。精神科領域の病気は、種類は多く細分化されていること、血液検査のように数値で判断というのがしにくい部分があることが、循環器内科の私には新鮮でした。
心が体に及ぼす影響や、自律神経失調症と症状が似ていながらも別に分類されている病気の診断、治療についてどんどん学習していきました。
また、私は両親が薬剤師だったこともあり、両親が扱う漢方薬で多くの患者さんが少しずつよくなる風景を子供のころからよく目の当たりにしており、私の自律神経失調症も漢方薬も服用してゆっくりと不調が改善していきました。
一時的に改善するのではなく、じっくりと治療するという点で精神科領域の治療と漢方薬は共通していて、相性が良いと考えました。調べてみると、精神科領域の病気に漢方薬が有用なケースはとても多いようです。
私は、精神科領域とともに漢方薬についても数年間しっかりと学習し、漢方薬を多く扱う心療内科としてココカラハートクリニックを開業しました。